定食の最初に差し上げる前菜の入ったこの長手箱。
評判が良いので嬉しく思っています。
中身ではなく、箱そのもの、という話です。
江戸指物の職人さんにお願いして、特注に応じていただきました。
杉でできていて、更に、縁に桑が巻いてあります。
箱の蓋は、ぴったりでなく、かと言って緩いこともなく
開ける人の手に、微妙な抵抗を与えながらついてくる感じ。
この、なんだか勿体の付いた感触がたまらない
と、多くのお客様からお褒めの言葉をいただきます。
昨日、写真の一箱を頂きながら、白ワインを飲みましたが
これでグラスに三杯も飲めてしまいました。
話をしながら、ゆっくりと
完食するまでに、30分はかかったかと思います。
そのくらいの時間、目の前にあって困らないような中身です。
中の料理は、お客様がいらっしゃる前に、盛り込んでおきます。
そして、蓋をしてお客さまのいらっしゃるのを待っています。
その時間が、長手箱の料理を一層おいしくしてくれるのです。
蓋を開けた時の、料理の香り。
これが一番のご馳走かもしれません。
質の良いお弁当もそうですけれど
中の料理の、匂いがほどよく調和しているところが
箱を使う良さ、というか、魅力だと感じます。
例えば、デミグラスソースだとか、チーズだとか
蓋を開けた途端、何の匂いなのかすぐに解ってしまうような
あるいは、ほかの食材の存在が消えてしまうような中身は
併せものとしての魅力に欠けるんじゃないでしょうか。
蓋をあけたときに、野菜の持つ、優しい素材の香りが
なんとなく混じり合って、とくに何かが主張することもなく
ただ、おいしそうな香りとなって、立ち上ってくる。
料理を作った人の心の優しさが、匂いとなって上ってくる。
それを、絵画の額縁の様に、杉の木の香りがひきしめている。
こうなると、酒のないのが淋しくなります。
いけませんな。
日本酒にしようか?
ワインにしようか?
蓋をあけた時に、相方を決めるのも、また楽しいかもしれません。
今宵は小雨が降って、夜がしっとりとしています。