冬も終わりかけの、ある日のこと。
六本木で、松葉蟹と、スッポンと、ふぐが出会いました。
蟹は、自らの身を投げ出し
スッポンと、ふぐは、全身から、エキスを捧げました。
京都からやってきた、光る米と
長野からやってきた、セリも加わりました。
せっかく集まったんだから。と
京都から来た米が言いました。
そうだね、今年の冬で一番の思い出になりたいね。
浜松から来たスッポンが応えました。
ふぐは、全身を膨らませて、考え込んでいます。
福井から来た蟹が、大きなはさみで自分を指して言いました。
僕の身を全部、あげるよ。
ずっと黙っていたふぐが、ゆっくり、低い声で言いました。
おいらには毒があるから、骨と、身を使ってよ。
ふぐが話し終えないうちに、長野から来たセリが叫びました。
僕を切り刻んで!
浜松のすっぽんが問いかけました。
誰に食べてもらおうか?
それは、神様にまかせよう。
と、京都の米。
もうすぐ春が来るね。
さあ、いこうか。
また来年、会おう。
みなそれぞれに目くばせしながら、消えていきました。
2015年の二月。
冬の終わりに。
セリを刻み込んだ白米に、フグの出汁を注ぎ
松葉蟹のほぐし身に、スッポンの出汁を混ぜて作った煮凝りを載せる。
瀬戸内の塩の結晶をアクセントに。
お客様の目の前で
ふぐの汁の中にゆっくりと沈み込む、蟹とスッポンの煮凝り。
そっと混ぜて、お召し上がりください。
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